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  • RECNA 准教授 中村桂子先生に聞く「核兵器禁止条約第一回締約国会議について」
2022/06/17/21:33

RECNA 准教授 中村桂子先生に聞く「核兵器禁止条約第一回締約国会議について」

昨年1月に発効した「核兵器禁止条約」
これまでに61カ国・地域が批准し、
6月21日から3日間、核兵器禁止条約の今後の運用を話し合う初の締約国会議が
オーストリアの首都ウィーンで開かれます。

核兵器禁止条約が改めてどんな条約なのか、そして締約国会議ではどういうことが行われるのか、核情勢に詳しい
長崎大学 核兵器廃絶研究センター RECNA 准教授 の 中村桂子さんにお話を伺いました。

〇現在の世界の核弾頭数

6月3日に公開した最新の核弾頭数は12,720発です。
昨年と比べるとマイナス410発。冷戦が終わって以降、総数は一貫して減少傾向にあります。
しかし単純に喜べるかというとそうではありません。

数字上は減っていますが、事実上の核軍拡が進んでいます。
アメリカとロシアを筆頭に、各国は最先端の技術を使った核弾頭やミサイル、核兵器を搭載する爆撃機、
潜水艦などの開発と配備を急ピッチで進めています。より小型で使いやすい核兵器の開発も進んでいます。

とりわけ今、ウクライナ危機が起きている中で、核兵器が実際に使用されてしまうリスクが一層高まっています。
もちろん一発でも核兵器は使われたら大変なことになる。
それは広島と長崎の経験から明らかです。しかしもしいま核兵器が使われるとしたら、一発で終わることはなく、
全面的な核戦争にエスカレートする危険性が指摘されています。
もしそうした全面戦争が勃発したらわずか数時間で9千万人以上の死傷者が出るという研究報告もあります。
とにかく核兵器を使わせてはならない、そのためには一日でも早く廃絶することが急務です。

〇昨年発効された核兵器禁止条約。改めてどのような条約なのか教えてください。

核兵器を持つこと、作ること、使うこと、核兵器をちらつかせて脅かすことなど、
核兵器に関する活動を全面的に違法とした画期的な条約です。
核を持たない国々がリードし、世界を動かす形で、2017年7月に国連で採択されました。

名前の通り、条約の柱は核兵器を禁止することですが、もう一つ、核兵器禁止条約には重要な柱があります。
それは核兵器で被害を受けた人々への援助、
それから核で汚染された環境の修復が初めて各国の義務として定められた点です。

核の被害というのは、広島、長崎だけではありません。
これまで世界中では2千回を超える核実験が行われてきました。
なかには広島・長崎の原爆の何千倍もの威力の核兵器が使われたものもあります。
そうした核実験が行われた場所は、大国の植民地や少数民族の住む土地など、
大国の政府に対してノーと言えない、立場の弱い人々の住むところでした。
被害は、人体への健康被害だけでなく、環境汚染、そして伝統的な暮らしや文化、コミュニティの破壊など、
多岐に及びます。多くの場合、被害者に対する補償や援助どころか、十分な調査さえ行われておらず、
被害の全容はわかっていません。
核兵器禁止条約は歴史上初めて、こうしたいわば「人類の負の歴史」に光を当てて、
核によって苦しむ人々を救っていくことと同時に、そうした人々を二度と生まないことを誓った条約なのです。

〇一回目の締約国会議、参加者・参加国はどのような面々なんでしょうか。

締約国というのは条約に正式に加入した国のことです。
現在61カ国・地域ですから、それらの国の多くが参加すると思われます。
加えて、締約国会議には、オブザーバーとして条約に入っていない国、国際機関、
それからNGOなども招待されています。日本からも被爆者や若者など、多くの参加者があると聞いています。

条約の締約国は現在すべて核兵器を持っていない国です。
核保有国、それから日本など核の傘の下の国一つも条約に入っていません。
日本政府はオブザーバー参加を見送る決定をしたとの報道がありましたが、
日本と同じ核の傘の下の国でも、ドイツやノルウェーはオブザーバー参加の意思を表明しています。
オブザーバーというのは投票など意思決定には参加できませんが、発言する機会は認められています。
日本が参加しないというのは非常に残念です。

〇締約国会議ではどのような事が話し合われるのでしょうか。

そもそも条約というのは「作って終わり」ではないんですね。
条約というのはいわば外枠みたいなもので、より実効性を持たせるために、
しっかりとその中身を詰めていく、という作業が必要になります。
その第一歩となるのが今回の締約国会議です。

たとえば先ほど条約の柱の一つが「被害者援助・環境修復」の義務だと言いましたが、
そもそも「被害者をどう定義するのか」「援助とは何をするのか」等々の中身は条約には書かれていません。
すべてこれからの話し合いによって決まります。ただ締約国会議は3日間だけですので
そこですべてを決めることは不可能です。ですので、今回の話し合いを通じて、
たとえば専門家チームを作るなど、これからどうやって議論を進めていくかの枠組み作りが行われていくのです。

〇締約国会議の前後にも、会議やフォーラムが行われますね。

6月18日、19日にはNGO主催のフォーラムが、
20日はオーストリア政府主催の「核兵器の非人道性に関する国際会議」が開かれます。政府関係者だけでなく、各国からの多くの専門家や市民が集まります。
若者会議や、国会議員会議なども開かれます。
この核兵器の非人道性に関する国際会議には、日本は出席しますが、締約国会議には出席しません。

ロシアによるウクライナ侵攻以降、核兵器使用に対する危機感は高まっています。
こうした状況を受けて、残念ながら世界では、やはり核には核で、力には力で対抗していくしかない、といった論調も強まっています。日本の核共有論などもそうですね。
ウィーンで開かれるこれらの会議を通じて、核兵器禁止・廃絶に向かう国際機運が
高まることが期待されています。

〇日本の今の立ち位置を中村先生はどう見ていますか。

日本は一貫して核兵器禁止条約には背を向けています。
アメリカの核抑止力に頼って安全を守ろうという日本の政策と矛盾するから、というのがその理由です。
今回、日本は締約国会議にオブザーバー参加することも拒否しました。
先ほど言いましたように、オブザーバーという立場でも議論に参加して、有益な貢献をすることは可能だったはずです。
とりわけ被害者援助・環境修復のテーマに対して、広島・長崎、そして福島の経験を持つ日本には多くのリソースや知見がありますから、日本の貢献には多くの期待が寄せられていました。世界が協力して核の被害に立ち向かおうとしている時に、被爆国の看板を背負っている日本が何もしないということは非常に残念ですし、情けなく思います。

〇最後に、ウィーンで行われる会議ですが、私たちが出来ることはなんでしょうか。

まずこの機会にこの問題に注目してほしい、と思います。核兵器をめぐって世界がどのような状況にあるのか、
核兵器禁止条約が何を成し遂げようとしているのか、この時期、多くの報道がなされますので、ぜひ読んでみてください。
さらに、今週末から来週にかけて、ウィーン現地と日本を繋いだオンラインのイベントなども予定されています。ぜひネットで検索してみてください。
<核禁ウィークin JAPANのウェブサイトはこちらから>

そして何より大事なのは、一過性のイベントで終わらせないことです。ぜひ引き続きこの問題に注目して、
家族や友人、あるいは学校や職場などで話してみるような機会を作っていただけると嬉しいです。

中村桂子先生にお話を伺いました🎤

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