NBC長崎放送

2022/09/06/19:47

先月行われたNPTの再検討会議について

先月8月1日~26日まで行われていた、NPT核兵器不拡散条約の再検討会議。

この期間の成果となる「最終文書」が採択できませんでした。

このことについて長崎大学 核兵器廃絶研究センター RECNA 准教授 の 中村桂子(なかむら・けいこ)さん

お話を伺いました。


Q.5年おきに開催されている再検討会議、コロナの影響もあり、今回は7年ごしの再検討会議の開催となりましたが、
前回の2015年の開催に続き、最終文書が採択されませんでした。ロシアが賛同しなかったのが要因ですが、
このような結果になってしまったのはどうしてなのでしょうか。

中村先生>報道されているように、合意に至らなかった直接的な原因はロシア一国の反対です。
NPTの会議は、多数決ではなく全会一致方式、つまり一国でも反対したら最終文書が作れない、
というルールになっているのです。

したがって、最終文書というのは各国の妥協の産物になっていくわけですね。
ロシアに関しても、当初は最終文書にザポリージャ原発の占拠を含め、ロシアを名指しで非難する
強い言葉が入っていたのですが、改訂を重ねていくなかでどんどんそういった部分は削られていったわけです。
それでも最終的にロシアは首を縦に振らなかった、ということです。

Q.今回の最終文書はどのような内容にまとめられていたんでしょうか。

中村先生>今回の再検討会議は、核兵器国が仕掛けた戦争の真っただ中、そして、核兵器が実際に使用されるかもしれない、という強い危機感が世界に広がっている中で開かれました。ですので核兵器を持たない国々、これを非核兵器国といいますが、これらの国には何とかしてこの会議を成功させて、核軍縮に対する逆風を止めたいと、核軍縮を前に進めたい、そういう思いがあったわけです。

しかしながら、最終的に作られた文書案は、そうした非核兵器国の期待に見合うようなものではありませんでした。
核保有国に核軍縮努力を迫るような、これまで以上に踏み込んだ表現はことごとく削られたり、表現を弱められたりしていったんですね。

大事な点は、これらの非核兵器国、とくに核兵器禁止条約を支持している国々が、単にロシアを批判するに留まらず、核兵器への依存を強く批判していたということです。つまり、非核兵器国は、ロシアだけでなくて、他の4つの核兵器国も、また日本のように核の傘に依存している国も変わらないといけない、と強く主張していたんです。

どういうことか。たとえばアメリカはロシアを非難するのですね。ロシアが行っている核の威嚇はけしからん、と。
つまり、アメリカ、イギリス、フランスの西側の自分たちは正しい核保有国で、ロシアや中国は正しくない核保有国だと。
そういう論法を使っています。しかし、核抑止に依存しているということは、アメリカもイギリスもフランスも、また核の傘の下の国々も、結局、基本的な考え方では一緒ですよね。核抑止というのは言い換えれば核による脅しですから、その意味ではやっていることはロシアと同じなんです。

先ほど言いましたように、今回の会議が決裂した原因を作ったのはロシアです。でも非核兵器国の多くは、ロシアが悪い、
とロシアを責めて終わりではなく、本当に核兵器で私たちの安全を守ることができるのか、しっかり考えるべきだ。
私たちの未来がかかっているのだから、と繰りかえしていました。このことを日本の私たちもしっかり考えるべきと思います。

Q.最終文書が採択されなかった事から起こりうる影響や問題はどのような事が考えられますか。

中村先生>今回の会議が決裂したことで急にNPT体制が崩壊するということはありません。しかし、大変な労力とお金をかけて会議を開いても、NPTの下では何も前に進まない、という落胆やあきらめが各国の中に広がっていることは事実です。これ自体は今後ますます大きな問題となっていくと思われます。今回、NPTプロセスを改善するための作業部会の設置が決まったのですが、なんとか建て直していくことに繋がれば、と思っています。

Q.非核保有国からのNPT体制への不信感が高まってきてしまっている状況ですが、NPTのあり方をどう思われますか。

最終日、多くの非核兵器国が、NPTを前に進めるためにも、核兵器禁止条約に加入していくべきだ、と強く訴えていました。これはNPTはもうだめだから核兵器禁止条約に乗り換えろ、という意味ではなく、2つの条約はお互いに補いあい、お互いを強めていく関係性だと。だから核兵器禁止条約の動きを強めていくことで、結果的にNPTを後押しすることになる、という主張です。

もちろんこうした主張は、核保有国や核の傘の国々にとっては受け入れられるものではありません。核保有国と非保有国、とりわけ核兵器禁止条約締約国の溝はなかなか埋まらないと思います。これからますます核保有国の反発が強くなる可能性もあります。ここを何とかもう少し日本に頑張ってほしいのですが。

Q.今私たちが考えるべきことや、すべきことはどんなことでしょうか。

日本における報道でもそうですが、今回の会議の総括として、どうしてもロシア一国が問題だった、というところに終始してしまいがちです。もちろん今の戦争はただちに終結すべきであり、ロシアの責任は問われるべきです。

でも再検討会議で繰り返し問われていたのは、核兵器で本当に私たちの世界は守られるのか、というより根本的な問いです。ウクライナの状況を受け、世界の核を持たない国々は、あらためて核抑止を間違い、誤りだ、と主張しています。そして日本を含めた核の傘の国も変わるべきだ、と訴えているんです。日本の国民、もちろん政治家も、この事実をもっとしっかり受け止められるべきと思います。

Q.最後にラジオをおききの皆さんにメッセージを

来年2023年には次のNPT再検討会議準備委員会が始まります。また11月には核兵器禁止条約の2回目の締約国会議も控えています。夏の終わりとともに核問題への関心はいったん終わってしまうのが常ですが、今がとても大事な時期です。どうか引き続きこの問題に注目していってください。


長崎大学 核兵器廃絶研究センター RECNA 准教授 の 中村桂子(なかむら・けいこ)さんに先月行われたNPT再検討会議についてお話を伺いました。

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